キャッシュ・フロー計算書の見方

企業の一定期間の経営活動の成果は損益計算書に表示されます。したがって、基本的に損益計算書を見れば、売上や当期純利益の金額を確認できます。

しかし、損益計算書では、一定期間の資金の収支を把握できません。そのため、企業の資金収支の情報を提供する財務諸表としてキャッシュ・フロー計算書が作成されます。

キャッシュ・フロー計算書の様式

キャッシュ・フロー計算書は、以下のような様式で作成されます。

キャッシュ・フロー計算書

キャッシュ・フロー計算書は企業の活動ごとに、大きく、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローの3つに区分されます。

また、営業活動によるキャッシュ・フローには、直接法と間接法の2種類の作成方法がありますが、財務諸表分析においては両者の違いは無視しても差し支えありません。

営業活動によるキャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュ・フローは、企業の主たる営業活動から発生したキャッシュ・フローが表示されます。

損益計算書の当期純利益と同じように思えますが、損益計算書上の当期純利益の中には現金の収入や支出が当期に発生していない取引が含まれている場合があります。

例えば、商品を販売し、その代金を1ヶ月後に現金で受け取る場合には、売上計上時期と商品代金の受取時期が1ヶ月ずれます。そうすると、損益計算書では12ヶ月分の売上が計上されても、代金の回収は11ヶ月分しかありません。期末時点では1ヶ月分が未回収として残っています。携帯電話の契約を思い浮かべるとわかりやすいです。電話会社は、加入者に1月分の通話料を2月に請求して口座振替で入金してもらいます。この場合、電話会社は売上を1月に計上していますが、通話料の代金は1月末では未回収の状態です。

このように売上計上と代金の回収時期がずれている場合、損益計算書からでは1年間の売上代金の回収額がわかりません。そのため、1年間の売上代金の回収額や仕入代金の支払額など、その企業の主たる営業活動で発生した資金の収支を営業活動によるキャッシュ・フローで明らかにしています。

営業活動によるキャッシュ・フローが多ければ、その企業の主たる営業活動が良好であると言えます。逆に営業活動によるキャッシュ・フローが少なければ、主たる営業活動がうまくいってなかったり、得意先から期日までに商品代金を回収できていないことが予測できます。

営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスであれば、その企業の経営活動は相当厳しいものと考えられます。

投資活動によるキャッシュ・フロー

投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資などの支出が表示されます。基本的に投資活動によるキャッシュ・フローは、マイナスとなります。しかし、マイナスだからと言っても、その企業が苦境に立たされているわけではありません。

企業の投資活動は、将来の売上拡大や利益獲得を目的として行われます。新規に工場を建設したり、新しい地域に支店や営業所を出したりする活動は、事業拡大のための支出なので好ましいことです。

投資活動によるキャッシュ・フローがプラスになっている場合は、土地や建物などの売却が行われています。工場や支店の閉鎖、子会社株式の売却など、リストラを行っていることが読み取れます。

財務活動によるキャッシュ・フロー

財務活動によるキャッシュ・フローでは、その企業の資金の調達や返済の活動が表示されます。

プラスになっている場合は、銀行からの借入などで資金調達していることがわかります。反対にマイナスの場合には、借入金を返済していることがわかります。

財務活動によるキャッシュ・フローを見て新規の借入が増えているから悪いとか、借金の返済が進んでいるから良いとか、一概に決めることはできません。大掛かりな設備投資を行っている企業では、資金を必要としていますから借入金が膨らみます。だからと言って、その企業が借金まみれになっているわけではありません。企業がしっかりとした事業計画を作成し、銀行もそれに納得したから貸し出していると考えることもできます。

それは、すなわち将来性のある新規事業に投資している結果なのです。この場合には、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナスになっているはずですから、財務活動によるキャッシュ・フローを見る場合は、投資活動によるキャッシュ・フローも併せて見る必要があります。

投資活動によるキャッシュ・フローがそれほどマイナスになっていないのに財務活動によるキャッシュ・フローがプラスになっている場合は、本業がうまくいっていない可能性があります。営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスになっていれば、運転資金を銀行借入で賄っていると分析できるでしょう。

このようにキャッシュ・フロー計算書は、損益計算書からだけでは読み取れない資金収支を把握するのに役立つ財務諸表です。損益計算書とキャッシュ・フロー計算書を併せて分析することで、その企業の経営活動の実態が見えやすくなります。

目次

  1. 財務分析の基本は財務諸表の見方を理解すること
  2. 貸借対照表の見方
    1. 資産と負債の区分表示
    2. 純資産の表示
  3. 損益計算書の見方
  4. キャッシュ・フロー計算書の見方
  5. 関係比率による財務諸表分析
    1. 静態比率による財務諸表分析
    2. 動態比率による財務諸表分析