今現在の1万円と将来の1万円は、同じ価値ではありません。
なぜなら、今現在の1万円は運用することで将来受け取れる金額を増加させ得るからです。将来の現金流入額を今現在の価値に換算することを現在価値に割り引くということを以下の記事で説明しました。
ここで、現在価値に割り引くときに使う割引率について考えてみましょう。人は、どのようにして割引率を決めているのでしょうか。
将来いくら受け取りたいか
例えば、今、あなたに1万円をあげるという人が現れたとします。1万円を受け取ることで、あなたが何かの見返りを相手に渡す必要はありません。
あなたが1万円を受け取ろうとしたところで相手が、
「やっぱりこの1万円は今渡せなくなったから1年待って欲しい。でも、1年後には利子をつけて渡すよ」
と言いました。
そこで、あなたは10%の利子を上乗せした1万1千円を欲しいと言い、相手も承諾しました。
この場合、あなたは、1年間我慢することと10%の利子を受け取ることが等価だと考えていることになります。そして、現在の1万円は1年後の1万1千円と同じ価値があるとも考えていることになります。
- 現在の10,000円=1年後の11,000円
1年後の1万1千円を現在価値に割り引く場合、以下の計算式に数値を入れて求めることができます。
ここで、右辺の分母「d」には遅延時間を入れます。遅延時間が1年であれば1、2年であれば2を入れます。
将来の名目価値には、将来受け取れる金額を入れます。
したがって、本事例では、dに1、将来の名目価値に1万1千円、割引率に0.1(10%)を入れて、現在価値を1万円と計算します。
指数型割引
先ほどの現在価値の計算式のdには、遅延時間を入れることを説明しました。
この計算式では、dの値は変えることができますが、割引率は時間の経過に関係なく一定であることが前提となっています。
このような割引率を使って計算した現在価値は、割引率の指数関数で表されるため、その計算方法を指数型割引といいます。
グラフにすると以下のようになります。
定期預金にお金を預けた場合、満期まで同じ利子率が適用されるので、指数型割引は馴染みやすいと思います。
1年後に10%の利子が付いた定期預金が1万1千円であれば、預け入れた時には10%で割り引いて元本が1万円と計算できます。2年間預ければ、1万1千円にさらに10%の利子が付き、3年預ければその上にまた10%の利子が付きます。10年定期であれば、この計算が10回繰り返されます。
このような利子の計算は当たり前に現代人に受容されているので、利子率が満期まで変化しないことに違和感を感じることはないでしょう。
双曲型割引
先ほどの例では、今現在の1万円と1年後の1万1千円は等価でした。つまり、今1万円もらうのも、1年後に1万1千円もらうのもどちらでもよく、両者は無差別であると言えます。
では、以下の条件に対して、あなたはどちらを選択するでしょうか。
- 5年後に1万円を受け取る
- 6年後に1万1千円を受け取る
どちらを選ぶかは、その人の好みによりますが、「2」の6年後に1万1千円を受け取ることを選ぶ人が多い傾向にあります。この問いは、先の例に5年足しただけなので、両者は等価、すなわち無差別です。
ところが遠い未来に得られる価値に対しては、多くの人が、より遠い未来に得られる価値の方が高いと判断する傾向にあるのです。
反対に近未来に受け取れる価値に対しては、その価値を高く評価する傾向があります。今の1万円を諦める代わりに6ヶ月後に利子を上乗せするとすれば、どの程度が良いかと質問されれば、年利10%よりも高い利子を望む傾向にあります。
これは、人は近未来の価値を高く、遠未来の価値を低く見積もる傾向があることを意味しており、割引率には以下の傾向が見られます。
- 近未来ほど割引率が高い
- 遠未来ほど割引率が低い
このような割引率を使って現在価値に割り引く方法を双曲型割引といいます。現在価値は、最初に急激に減少しますが、時間の経過とともに減少が緩やかになります。
グラフにすると以下のようになります。
指数型割引と双曲型割引を同じグラフに描くと、その違いがよくわかります。
上のグラフを見れば、双曲型割引の方が最初は急激に価値が減少しているのがわかりますね。
短期投資はハイリスクになりやすい
デイトレードのように短期売買を繰り返す取引では、高い利回りを求める傾向にあります。
これも、人が近未来の価値を高く評価することと関係がありそうですね。
長い目で見て年利3%で運用する手堅い投資と比較すれば、デイトレードで得られる利益率はその数十倍、数百倍となっているのではないでしょうか。100万円の元手を今日中に103万円にしようとする投資行動は利益率3%ですが、年利換算すると1,095%になりますからハイリターンを狙った投資であることがわかります。
このような投資行動は、無理があると気づかなければいけませんね。