収益認識に関する会計基準の適用で損益計算書と貸借対照表の分析が変わる

2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度から、収益認識に関する会計基準が適用されることになりました。

これにより、損益計算書と貸借対照表に計上される勘定科目や金額のうち、従来と変わる部分が出てきました。収益認識に関する会計基準は、その名の通り収益の認識に関する定めなので、多くの企業では売上高が影響を受けます。

特に商社や小売店では、売上高が大きく変化することがあるので、2022年3月期決算からの財務諸表分析には注意する必要があります。

商社の直送取引の売上高は大きく減少する

まず、商社で大きな影響を受けるのは直送取引です。

直送取引は、メーカーから小売店などに商品を発送する手配をする取引です。商社では、自社の倉庫に商品を保管することなく、右から左に商品を移動させるだけなので、在庫リスクは負担していません。

このような直送取引は、従来は、商社がメーカーから商品を仕入れ、小売店に販売する会計処理が行われていました。

例えば、商品原価が8,000円、売上高が10,000円だった場合、従来の損益計算書では以下のように表示していました。

商社の従来の損益計算書

しかし、新収益認識基準の適用により、商社の直送取引に見られるように商品を全く支配することなく在庫リスクも負わない取引の場合は、従来の売上高から売上原価を差し引いた金額で収益を計上しなければならなくなりました。

先の例でいうと、売価10,000円から原価8,000円を差し引いた2,000円だけを売上高として表示しなければなりません。

商社の新収益基準の損益計算書

直送取引が多い商社では、売上高が2021年3月期以前よりも著しく減少している可能性があるので注意しましょう。

従来の会計基準でも、新収益認識基準でも、売上総利益は同じになりますから、売上高が著しく変動している場合には、売上総利益を前期比較すると良いでしょう。

ポイントを付与した時に売上高から減額

顧客にポイントを付与している小売店も、売上高に影響があります。

従来の会計基準では、ポイントは、顧客が使用した時に売上値引きとして処理していましたが、新収益認識基準では、ポイントを付与した時点で売上高を減額するようになりました。

例えば、売上高が10,000円、売上原価が8,000円、来期以降使用される見込みが高いポイントが50円だったとします。

従来の会計基準では、売上高10,000円、売上原価8,000円、ポイント引当金(販管費)50円を損益計算書に計上していました。

小売店の従来の損益計算書

しかし、新収益認識基準では、このような処理は認められなくなり、ポイントは付与した時に将来使用が見込まれる部分を売上高から減額することになりました。

小売店の新収益認識基準の損益計算書

また、貸借対照表も従来は、ポイント引当金が負債の部に計上されていました。

従来の貸借対照表

しかし、新収益認識基準の適用で売上高から減額したポイント部分は契約負債として引当金に計上することになっています。

新収益認識基準の貸借対照表

契約負債は、ポイントを付与した場合だけでなく、商品券を販売した場合も計上されます。

商品券は販売した時の価格で契約負債を計上しますが、将来失効すると見込む部分については、顧客が商品券を使用する都度少しずつ収益計上していくことになったので、貸借対照表に計上されている商品券(契約負債)は、期末時点の商品券残高よりも少なくなります。

消化仕入

消化仕入も、新収益認識基準の影響を大きく受けます。

消化仕入は、メーカーが小売店に商品を陳列する棚を確保し、商品が売れるたびに小売店がメーカーから商品を仕入れる取引です。したがって、商品が売れない限り、小売店はメーカーに1円も支払う必要はありません。

このような消化仕入も、商社の直送取引と同じく、小売店は商品を支配しているとは言えず、在庫リスクを負担していません。

そのため、消化仕入も、直送取引と同じように売上高から仕入原価を差し引いた純額で収益を認識することになります。

他にも、収益認識に関する会計基準の適用で変わる部分がありますが、大きな影響を受けるのは、直送取引、消化仕入、ポイントです。

商社や小売店の財務分析をする場合は、2021年3月期以前と売上高の計上の仕方が変わっていることに注意してください。