資産運用では利得よりも損失を大きく評価しがちな人の心理を知っておく

100万円の資産を株式で運用した結果、1万円の利得が発生したとしましょう。

この場合、資産が1万円増加したので、今までより資産の価値が1万円高まったことになります。だから、1万円得したと感じるわけですが、その得したと感じる感覚はいつも同じでしょうか。

例えば、100万円が全財産の人にとって100万円を株式で運用した結果1万円の利得が発生するのと、1,000万円の資産を保有している人が100万円を株式で運用して1万円の利得が発生するのとは、同じ1万円の価値の増加ですが、喜びは違うことでしょう。きっと、100万円しかもっていない人が1万円儲かった時の方が喜びが大きいはずです。

参照点依存性

同じ1万円の利得でも、人によって喜びが変わるのは、参照点をどこに置いているかと関わっています。

参照点は、過去の習慣や現在の状況など、様々な要因によって決まります。そして、利得や損失は、この参照点からどれだけ離れているかによって判断されます。

額面上は同じ1万円であっても、現在の保有資産が参照点になっていれば、100万円の資産を保有している場合の方が、1,000万円の資産を保有している場合よりも価値(効用)を高く感じます。

このように価値の感じ方が参照点によって変化することを参照点依存性といいます。

年収2,000万円の人が1,500万円に減った場合と年収400万円の人が500万円に上がった場合を比較すると、絶対額では前者の方が大きいですが、幸福感を感じやすいのは後者でしょう。このように感じるのは、現在の年収が参照点になっているからです。

前者も後者も参照点が400万円であれば、前者の方が幸せだと感じるのでしょうが、一度多くの収入を得た人は、最高年収を参照点にするでしょうから、他人から見たら十分な収入であっても不幸に感じるということですね。

利得よりも損失を大きく評価する

1万円の利得に対して10の喜びを感じていた人でも、年収や保有資産が増えるにしたがって、同じ1万円でも、喜びが9、8、7、6と減っていくことがわかっています。

また、1万円の損失に対しても、参照点から遠くなるにしたがって、悲しみが減っていきます。

このような人の価値の感じ方を表したのが効用関数価値関数)です。

効用関数

効用関数の原点は参照点を表しています。

参照点に近いほど、利得も損失も効用(価値)を大きく感じます。しかし、参照点から離れるほど同じ利得や損失であっても、効用が小さく感じられるようになります。

さらに興味深いのは、人は、利得よりも損失を大きく捉えがちだということです。1万円が入ってきた時の喜びを「+10」とすれば、1万円が失われた時の悲しみは「-10」となりそうですが、人は損失を大きく評価するので、1万円の損失は「-11」や「-12」と感じてしまいます。

だから、上の効用関数でも、左側の損失の方が原点から急激に下がっています。

投資の判断が狂っていないか

このように人は、利得よりも損失を大きく評価しがちです。

しかし、損失を大きく評価してしまうと、資産運用ではデメリットとなる場合があるので注意しなければなりません。

50%の確率で5万円の利益が出るけども、50%の確率で4万円の損失が出る投資案件があったとしましょう。この場合、得する確率も損する確率も同じですが、利益の方が損失よりも金額が高くなっています。

このような投資案件は、利益が出る期待値が高いので投資すべきです。しかし、損失を高く評価してしまうと、損失が出る期待値を高く計算してしまい、良い投資案件でも悪い投資案件だと間違った評価をする危険があります。

人は損失を大きく評価しがちだと知っておくことは、資産運用でも役に立つはずです。

また、人には参照点依存性があることにも留意しておかなければなりません。100万円を投資して1万円の利益を得られる案件が割の良い資産運用だったとしても、現在の保有資産が数千万円ある場合には、1,000万円を投資して3万円得られる案件の方が良い資産運用だと評価してしまうかもしれません。

感情に流された投資をしないためには、人の感情の癖を知っておくことが大切です。