老後資金を確保する基本的手段は、国民年金や厚生年金といった公的年金です。会社員や公務員の方は、毎月もらう給料から年金の保険料が天引きされているので、特別なことは何もしなくても、年金受給年齢に達した時に所定の手続きさえすれば、年金を受け取ることができます。
ただし、公的年金は、現役時代に受け取っていた給料によって多かったり少なかったりするので、全員が同額の年金を受け取れるわけではありません。だから、将来の年金受給額を増やすためには、一生懸命働いて、給料を増やすのが正攻法となります。
しかし、そうは言っても、自分の意思で給料を増やすのは困難です。
そのため、現在もらっている給料を前提にして、いくらを老後資金のために残しておくかを考えておく必要があります。老後資金を確保する手段には、預貯金、株式投資、不動産投資などが考えられますが、これらでの資産運用で老後資金を確保しようと思うなら、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入することをおすすめします。
iDeCoには税制面の優遇がある
iDeCoに加入して、老後資金を確保することには、税金が優遇されるというメリットが3つあります。
1.運用益は非課税
通常、預貯金につく利息には、20%の税金がかかりますから、手元に残る正味の利息は80%です。また、株式などの金融商品を売却した時に利益が出ると、その利益にも課税されます。
ところが、iDeCoに加入して掛金を運用した場合、得られた利息や売却益には税金がかかりません。だから、同額の利息や売却益を得た場合には、iDeCoの方が税金がかからない分だけ、手元に残るお金が多くなります。
2.掛金は全額所得控除
iDeCoの節税効果は、運用中の利益が非課税なだけではありません。
iDeCoに毎月支払う掛金は、全額が小規模企業共済掛金控除という所得控除の対象となります。所得控除は、課税所得から差し引かれるもので、所得控除額に税率を乗じた金額だけ税金が安くなります。
例えば、所得税率が5%、住民税率が10%の合計15%の税率が適用されたとします。そして、年間のiDeCoの掛金支払額が12万円だったとしましょう。この場合、以下の計算式から1万8千円の税金が節約できることになります。
- 120,000円×15%=18,000円
所得税の最高税率は45%ですから、住民税率と合わせると最高税率は55%となります。年間12万円の掛金支払いなら、6万6千円の節税です。所得が多い人ほど、iDeCoに加入して資産運用をした時の節税額が多くなりますから、毎年、多くの所得税と住民税を納めている場合には、積極的にiDeCoに加入して節税すべきです。
3.年金受取時にも税金を優遇
iDeCoで掛金を60歳まで運用すると、それまで運用してきた資金を年金か一時金として受け取ることができます。一部を年金、一部を一時金として受け取ることも可能です。
iDeCoの老齢給付金を年金として受け取る場合も、一時金として受け取る場合も、税制上の優遇を受けられます。
年金として受け取る場合の税制上の優遇
iDeCoの老齢給付金を年金として受け取る場合は、公的年金等控除を受けられます。
そのため、年金受取額によっては、1円も税金を納めなくても良い場合があります。なお、iDeCoの老齢給付金は、雑所得となり、以下の計算式で雑所得の金額を計算します。
- 公的年金等の収入金額の合計×割合-控除額=雑所得
雑所得の控除額は、65歳未満と65歳以上で以下のようになっています。
年齢 | 公的年金等の収入金額の合計 | 割合 | 控除額 |
---|---|---|---|
65歳未満 | 70万円以下は所得ゼロ | ||
70万円超130万円未満 | 100% | 700,000円 | |
130万円超410万円未満 | 75% | 375,000円 | |
410万円超770万円未満 | 85% | 785,000円 | |
770万円以上 | 95% | 1,555,000円 | |
65歳以上 | 120万円以下は所得ゼロ | ||
120万円超330万円未満 | 100% | 1,200,000円 | |
330万円超410万円未満 | 75% | 375,000円 | |
410万円超770万円未満 | 85% | 785,000円 | |
770万円以上 | 95% | 1,555,000円 |
65歳までは、年間の年金受取額が70万円未満なら、税金はゼロです。65歳以上では、120万円までは税金がゼロになります。
ただし、「公的年金等の収入金額の合計」は、iDeCoの他にも、国民年金や厚生年金などの年金受取額も合計した金額になるので、iDeCoの年金受取額が70万円、あるいは120万円以下だから税金を納めなくて良いとはなりません。
一時金として受け取る場合の税制上の優遇
iDeCoの老齢給付金を一時金として受け取る場合は、退職金を受け取るのと同じ税制上の優遇があります。
退職所得の金額は、以下の計算式で求めます。
- (収入金額-退職所得控除額)×1/2
上記計算式の退職所得控除額は、勤続年数(iDeCoは払込年数)によって計算が異なります。
払込年数20年以下の場合の退職所得控除額
40万円×払込年数(80万円未満は80万円)
払込年数20年超の場合の退職所得控除額
800万円+70万円×(払込年数-20年)
さらに退職金は、他の所得と切り離して課税する分離課税になっており、税額計算も優遇されています。
所得税の課税額は、以下の計算式で求めます。
- 課税退職所得金額×税率-控除額
課税退職所得金額ごとの税率と控除額は以下の通りです。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 15% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
例えば、勤続30年で退職金を3千万円受け取った場合、課税退職所得金額は750万円になります。
- 退職所得控除額=8,000,000円+700,000円×(30年-20年)=15,000,000円
- 課税退職所得金額=(30,000,000円-15,000,000円)×1/2=7,500,000円
次に所得税額を計算すると、108万9千円になります。
- 7,500,000円×23%-636,000円=1,089,000円
なお、2013年より25年間、復興特別所得税が所得税額に2.1%上乗せされます。したがって、復興特別所得税も含めた所得税額は以下の通りです。
- 1,089,000円+1,089,000円×2.1%=1,111,869円
また、住民税が課税退職所得金額の10%かかるので、所得税額と住民税額を合計すると1,861,869円になります。
- 1,111,869円+7,500,000円×10%=1,861,869円
退職金の税額の計算はややこしいので、以下のホームページを利用すると良いでしょう。
なお、iDeCoの老齢給付金を一時金として受け取る場合、課税退職所得金額と税額の計算は、職場からもらった退職金と合算して計算することに注意しなければなりません。
iDeCoの加入条件
税制上の優遇を受けられるiDeCoは、20歳以上だとほぼ誰でも加入できます。
ただし、国民年金が未納であったり免除期間がある場合は加入できません。職場が企業型確定拠出年金(DC)に加入していて、iDeCoの加入を認めていない場合も加入できません。
資産運用はiDeCoを優先する
今、老後に備えるために定期預金を利用している方や投資信託で余裕資金を運用している方は、iDeCoでの資産運用を優先しましょう。
iDeCoに加入して掛金を定期預金で運用する場合、掛金は所得控除できるので、ただ定期預金にお金を預けているだけで節税できます。
また、投資信託は、金融機関に運用を任せっぱなしになるので、資産運用にはおすすめできませんが、iDeCoに加入して投資信託で資産運用する場合、売却益が非課税、掛金全額を所得控除できるメリットがあるので、デメリットを上回るメリットがあると言えます。だから、投資信託を買うなら、iDeCoに加入してから買うようにしましょう。
なお、iDeCoに加入すると、60歳になるまで手元に資金が戻って来ません。これは、iDeCoのデメリットなのですが、資産運用は短期売買ではなく長期運用が基本であること、老後資金を確保することがiDeCoの目的であることから、大したデメリットではありません。