世の中にはたくさんの投資対象があります。値動きがあるものであれば、ほとんどのモノが投資対象となり得ます。株式、債券、米、金、原油などがすぐに思い浮かぶ投資対象ですね。
これら実物取引から派生した投資対象にデリバティブ(金融派生商品)があります。先物取引、オプション取引、スワップ取引が有名ですね。デリバティブは、それ単独で取引する場合は単なる投機であって、とても投資とは言えません。しかし、デリバティブは使い方によってはリスクヘッジに利用できます。
ドル建て再建のリスク
今仮にドル建ての貸付金があったとします。アメリカ人の友人にドルでいくらか貸していると想像してください。
あなたが友人にドルを貸す場合、銀行に行って円をドルに交換しなければなりません。この時の為替相場は1ドル=100円だったとしましょう。
もしも、友人が貸したドルを返してくれた時に1ドル=103円になっていれば、あなたは銀行に1ドルを持っていって103円と交換してもらえますから、貸付け時よりも3円多くの日本円が返ってきたことになります。反対に1ドル=97円になっていれば3円の損です。
このドル建て債権の損益をグラフに表すと以下のようになります。
このグラフを見ればすぐにわかるようにドル建て債権を持っている場合は、返済日に貸し付けた時よりも円安(ドル高)になっていれば得します。
しかし、為替相場は、円高に動くのか円安に動くのかわかりません。このように為替相場の変動によって得したり損したりする可能性があることをリスクと言います。
先物相場の損益
ドル建て債権を持っている場合に為替相場の変動リスクをなくすためにはどうすれば良いでしょうか?
最も簡単な方法は、アメリカ人の友人に円建てでお金を貸すことです。最初から100円を貸して将来100円を返してもらう約束にしておけば、一切為替リスクは発生しません。しかし、すでにドルで貸してしまっているので、今さら円建ての貸し付けにすることはできません。
そこで、今度は近い将来にアメリカに旅行に行く友人に旅行直前にドルをいくらかで売る約束をしておくのです。例えば、旅行の前日に1ドル=103円で売るといったように。
この場合、1ドルが100円になっていれば、あなたは銀行で1ドル=100円で取得して旅行に行く友人に103円で売れますから3円得します。反対に1ドル=97円になっていれば3円の損です。この取引の損益をグラフに表したのが以下です。
一言で言うと、1ドル=103円より円高(ドル安)になれば得し円安(ドル高)になれば損するということですね。
リスクヘッジの損益
ここでいったん整理します。
- アメリカ人の友人に1ドル=100円で貸したお金は、将来の返済日に1ドル=100円よりも円安(ドル高)になっていれば得し、円高(ドル安)になっていれば損する。
- 近い将来に海外旅行に出かける友人に1ドル=103円でドルを売る約束をすると、将来、1ドル=103円よりも円高(ドル安)になっていれば得し、円安(ドル高)になっていれば損する。
上の2つの取引を合成すると、あなたは将来円高になっても円安になっても、必ず1ドルにつき3円得します。例えば、1ドル=105円になっていた場合、アメリカ人の友人に貸した100円は105円になって戻ってきますから5円得しますが、アメリカ旅行に出かける友人には銀行で105円でドルを買って103円で売らなければならないので2円損します。すなわち、差引3円の得です。
1ドル=97円になっていた場合には、アメリカ人の友人に対しては3円の損、アメリカ旅行に出かける友人に対しては6円の得となるので、差引3円の得です。
したがって、両者の取引を合成した時の損益は以下のグラフのようになります。
上のグラフを見ればわかりますが、為替相場に関係なく損益は常に一定です。これは、将来の一定時点にドル買いとドル売りという反対の取引が同時に起こることで、損益を打ち消し合っているのです。
あなたがアメリカ旅行に出かける友人と旅行に出かける直前に1ドル=103円でドルを売る約束をしたのは、先渡取引(先物取引)と呼ばれる取引です。もしも、先渡取引だけを行えば、将来の為替相場の変動によって得したり損したりします。円高になるのか円安になるのか、契約時点ではわかりませんから、先渡取引を単独で行うのは投機でしかありません。
しかし、ドル建て債権という原資産を持っている状態で、先渡取引をすることは原資産から発生する為替変動を先渡取引から発生する為替変動で打ち消せるのでリスクヘッジになります。
このようにデリバティブ取引は、原資産を保有している場合にリスクヘッジを目的に行うものです。外貨預金がある場合に外国為替証拠金取引(FX)をするのは理解できますが、外貨預金がないのにFXを行うのは単なるギャンブルでしかないですね。