資産運用では、客観的に投資対象を評価しなければなりません。
すぐにお金が欲しいと、短期に大きな利益が得られる投資対象を探したくなりますし、そのような状況では、投資対象を過大に評価してしまう可能性もあります。
感情を殺してロボットのように投資することが、資産運用では大切になりますが、誰でも自分の願望が先走り、あまり魅力的ではない投資対象につい大きく投資してしまうことがあります。
期待値を計算する
例えば、投資案Aは80%の確率で10万円の利益が得られたとします。また、投資案Bは100%の確率で7万円の利益が得られたとします。
投資案Aか、投資案Bか、どちらかにしか投資できなかったとしたら、あなたはどちらを選びますか?
このような場合には、得られる利益に起こる確率を乗じて期待値を計算し、それが大きい方を選ぶのが理論的に正しい投資判断となります。投資案Aと投資案Bの期待値を計算すると以下の通りです。
投資案A=100,000円×80%=80,000円
投資案B=70,000円×100%=70,000円
したがって、投資案Aが有利な投資だと評価できます。
では、投資案Cは5%の確率で20万円の利益を得られ、投資案Dは3%の確率で30万円得られる場合は、どちらを選びますか?
この場合も、同じように期待値を計算すれば良いだけです。
投資案C=200,000円×5%=10,000円
投資案D=300,000円×3%=9,000円
期待値が大きいのは投資案Cなので、投資するなら投資案Cが有利となります。
このように複数の投資案のうちどれが優れているかを計算できる人は、客観的確率をそのまま受け入れることができるので、主観的確率と客観的確率が一致しています。図で表すと以下のような感じですね。
客観的確率と主観的確率が一致している場合、グラフは右肩上がりのまっすぐな線になります。株式でも不動産でも、何かに投資する場合は、このような態度で臨みたいですね。
確率加重関数
一見すると簡単な期待値の計算ですが、このように計算して投資案を選択するのは意外と難しいことです。
カーネマンやトヴェルスキーらの実験で、人は、確率が高い場合には過小評価し、確率が低い場合には過大評価する傾向があることがわかっています。
先の例では、80%の確率で10万円が得られる投資案Aよりも、100%の確率で7万円が得られる投資案Bを選ぶ人が多くなるのです。また、5%の確率で20万円得られる投資案Cよりも、3%の確率で30万円得られる投資案Dの方が好まれる傾向があります。
このことは、確率がそのまま利益に掛けられるのではなく、確率に自分の評価を上乗せした値を利益に掛けていることを表しています。
横軸に客観的確率、縦軸に評価を上乗せした主観的確率をとった場合の確率加重関数は、以下のようになります。
人は、客観的確率が極めて低い場合には、その確率を実際よりも高く評価しがちです。反対に客観的確率が非常に高い場合には、その確率を過小評価しがちです。
トヴェルスキーは、客観的確率が0.3程度の時には主観的確率と一致することを計測しています。客観的確率が0.3以下では主観的確率が過大評価され、客観的確率が0.3以上だと主観的確率は過小評価される傾向にあります。
例えば、1等3億円の宝くじと1等5千万円の宝くじがあったとします。前者の確率は1,000万分の1で、後者の確率は100万分の1だったとしましょう。どちらも、まず当たりっこないので、夢がある1等3億円の宝くじを買おうと考える人は多いのではないですか?
期待値を計算すれば、1等5千万円の宝くじの方が上ですが、あまりに確率が低すぎるためか、当選金が多い1等3億円を選びたくなるのでしょうね。
1等3億円の宝くじの期待値=3億円×1/1,000万=30円
1等5千万円の宝くじの期待値=5千万円×1/100万=50円
反対に確率が高くなると、人は確実性が高い方をより好む傾向があり、期待値が高い投資案Aよりも、期待値は低いけど100%の利益が保証されている投資案Bを選ぶ人が増えます。
やり直しできるか
このように人は、発生確率が高い場合と低い場合で、矛盾した選択をする傾向があります。
この傾向を知っていれば、客観的に計算された期待値に素直に従って資産運用ができるようになるはずです。
しかし、ここで考えなければならないことがあります。
それは、何度でもチャレンジできるかどうかです。
先の投資案Aと投資案Bでは、投資案Aの期待値が高かったので、投資案Aを選ぶのが正解です。でも、投資案Aと投資案Bの比較が、今後も訪れるかどうかわかりません。もしかしたら、一生に一度だけの選択かもしれません。その場合でも、投資案Aを選択すべきでしょうか?
投資案Aと同じ期待値8万円の投資案Eがあったとします。投資案Eは、80%の確率で12,500万円が得られ、20%の確率で49,960万円損する投資です。
同じ期待値だったとしても、投資案Aと投資案Eだったら、投資案Aを選びますよね。投資案Eは、失敗したら5億円近い損失を出すのですから、一度でも失敗すれば、一生かかっても返せない借金を背負わなければなりません。
投資案Aと投資案Bの選択は、何度でも選択の場面が訪れることを前提しているから、投資案Aが有利と評価できるのであり、一発勝負の場合に本当に投資案Aを選ぶ方が正しいのかはわかりません。
基本的に資産運用では、客観的確率に従って投資するべきです。
しかし、一度でも失敗したら巨額の損失が発生するような投資は避けるのが無難です。