現在では、株式会社が発行する株式が売買の対象となっています。そのため、株で儲けるとは、株式を取得した時よりも高い値で売却することと考えられています。
しかし、株式会社制度ができたばかりの時は、現在のように株式の売買で儲けるのではなく、ある事業を終えた後の残余財産の分配によって儲けるものでした。
事業には期限があった
現在、株式会社でも合同会社でも、会社を設立すれば長期間倒産することなく継続させるものだというのが当たり前となっています。
小売店でも、メーカーでも、ゴールを決めて設立されることはほとんどありません。
しかし、株式会社制度が誕生したばかりの頃は、会社はある目的を達成した段階で解散するのが当たり前でした。つまり、株式会社には期限が設けられていたのです。
例えば、石炭を採掘する事業を始めようと思った時、投資家から出資を受けて石炭の採掘が行われていました。そして、一つの山の石炭を採掘し尽くして、全ての石炭を販売した後に得られた利益は、出資者の出資額に応じて分配されるようになっていました。
1人100万円ずつ10人が出資して1,000万円の資本を集め、それを元手に石炭を採掘し販売したら3,000万円の利益を獲得できたとしましょう。この時、山からすべての石炭を掘り尽くしたので、この会社は解散します。そして、得られた利益3,000万円は出資者10人に分配されます。出資額が均等なので、この場合は1人300万円ずつの利益の分配を得られます。
このような事業の仕方が株式会社の始まりだったのです。
会社が解散しなくなった
しかし、ある山から石炭を掘り尽くした後、また他の山を探してきて石炭の採掘のために出資を募っていたのでは手間がかかります。そこで、最初の山から石炭を採掘して儲けた利益3,000万円を出資者に分配せず、さらにこの資金を次の石炭の採掘のための元手に利用することにします。
2つ目の山から採掘した石炭を販売して得られた利益は9,000万円でした。ここで、出資者10人に利益を分配すれば、1人当たり900万円です。でも、この利益9,000万円を使って、さらに石炭の採掘をすれば、もっと儲かります。そして、9,000万円を元手に石炭を採掘し販売したら、3億円の利益が得られました。
このように利益を次の事業に再投資するようになっていくと、株式会社は解散しなくなります。株式会社が解散しなくなると、出資者はいつまでも利益の分配に与れません。そこで、出資者としての権利を他人に譲渡できるようにしたのです。これが、現在行われている株式取引です。
株式会社の始まりを知れば、株価は、将来の株式会社の解散時にどれだけの利益を得られるかで決まるものだとわかるでしょう。しかし、株式会社がいつ解散するかはわかりません。だから、株価には多くの株主の様々な思惑が混ざり込み、時にその会社の企業価値とかけ離れた株価で取引されることがあるのです。
株式会社がいつまで続くかわからない以上、現在の解散価値を企業価値とするのは妥当ではありません。しかし、株価が1株当たり純資産と大幅に異なっている場合には、その銘柄は過大評価または過小評価されている可能性があります。
いつ解散するかわからない株式会社なのですから、短期的に企業価値を把握することは困難です。だから、株式投資は長期保有を前提にすべきなのです。