株式投資をすすめる人の中には、預貯金はインフレに弱いけども株式はインフレに強いという理由を挙げることがあります。
確かに株価は物価上昇率を反映しやすい側面はあります。だからと言って、インフレ時にすべての株式が値を上げるとは限りません。
インフレ率以下の株価上昇
そもそも株式投資がインフレに強いと言えるためには、株価がインフレ率以上に上昇しなければなりません。
しかし、企業の業績が悪ければ、その企業が発行している株式は値を下げます。だから、インフレ時でも、それほど株価が上がらない場合もありますし、業績が悪すぎればインフレにもかかわらず株価が下落することだってあるのです。
これを理解していれば、インフレ率以下の株価上昇にしかならない株式があることがわかるでしょう。インフレ時に株価が上昇するためには、インフレ率を加味して企業の損益計算をした場合でも、利益が計上されていなければなりません。
後入先出法での損益計算
インフレ率を加味して損益計算する場合、後入先出法を利用するのが簡単です。
後入先出法は、後から仕入れた商品を先に売るという前提で損益計算をする方法です。例えば、ある企業の仕入状況が以下の通りだったとしましょう。
- 00年5月25日:商品1個を100円で仕入れ
- 01年3月12日:商品1個を150円で仕入れ
当期の販売数量は1個と仮定します。販売価格は200円です。この場合、先入先出法だと利益は100円、後入先出法だと利益は50円になります。
- 先入先出法:売上200円-仕入100円=利益100円
- 後入先出法:売上200円-仕入150円=利益50円
先入先出法と後入先出法との間の利益の差50円は、当期の物価上昇の差と考えられます。つまり、先入先出法は物価上昇率(インフレ率)を無視して計算された利益ということです。
00年5月25日に商品を仕入れた時は100円でしたが、01年3月12日に同じ商品を仕入れた時には150円でした。この差50円は物価上昇によるものです。もしも、3月12日以降も150円でしか商品を仕入れられなければ、200円で販売している限り1個あたり50円の利益しか得られません。
先入先出法での利益が100円になっているのは、その中に物価上昇分50円が含まれているからです。この部分も利益と考えて、株主に利益100円全てを配当として支払うと、企業内の資金が100円しか残らなくなるので、次の仕入に必要な150円に不足してしまいます。だから、物価上昇分の50円は社外流出させてはいけない計算上の利益、つまり物価上昇分として社内に残しておかなければならない資本となるのです。
インフレ率を無視した経営をすると実質的な株価が下がる
上の例で、先入先出法を採用し、150円で商品を販売したらどうなるでしょうか?
この場合、50円の利益が計上されます。しかし、次の仕入れに必要な資金が150円ですから、商品を仕入れると利益が社内に残らなくなります。したがって、商品を150円で販売すると、実質的に仕入価格で商品を売ったのと同じになり利益が出ないのです。
当然、このような経営をしていれば、株価もインフレ率と同じだけしか上がりません。すなわち、インフレ率も考慮すると、この企業の株価はまったく変動していないことになります。
株式投資がインフレに強いというのは、インフレ率を加味した損益計算をしている企業が、インフレ率を超える名目利益を獲得している場合だけです。
このように考えれば、株式投資よりも普通預金の方がインフレに強い資産運用方法だとわかります。