誰でも、資産運用を目的に株式や不動産などを取得する場合、将来的に取得原価よりも時価が高くなることを期待しているはずです。
しかし、予想していたように時価が上昇しないことはありますし、逆に値下がりすることもあります。このままだと、じわじわと株価が下がり続けるのは、誰が見ても明らかなのに売却をためらって、損失を膨らませてしまう人は多いことでしょう。
他人の立場から見れば、早く売却した方が良いとわかるのに自分が同じ立場になると売却できなくなるのは、どうしてなのでしょうか。
自分が持っているものを過大評価する
人は、得するよりも損したくないという心理が強いことが、持っているものをなかなか手放せない理由と考えられます。
例えば価値が同じものを交換する場合を考えてみましょう。
100円のプリンと100円のシュークリームは同価値なので、味の嗜好を考えなければ、プリンをシュークリームと交換するのも、シュークリームをプリンと交換するのも、持っている価値は増えもしないし減りもしません。
これは、100円でプリンを購入する場合にも当てはまります。
100円とプリンは同じ価値なので、100円を支払ってプリンを買っても、同価値のものを交換したに過ぎないので、損得はありません。
ところが、人は同価値の交換であっても損得が発生しているように感じます。
- 自分の所有物を手放すことは損失であり、あるものを手に入れることは利得と感じる。
- ものを買うために現金を支払うのは損失であり、所有物を売却して得た現金は利得と感じる。
ここで、人は得することよりも損したくないという気持ちが強いので、100円でプリンを買った場合、同価値の交換であるにもかかわらず、支払った100円の方が価値が高いと感じてしまいます。
同じ価値のもの同士の交換でも損したように感じる
100円のプリンと100円のシュークリームを交換する場合を考えてみましょう。
今、自分がプリンを持っていた場合、シュークリームと交換するでしょうか。
このように問われると、交換しても交換しなくても、自分が保有している価値に変化はないから、交換に応じても構わないと思うでしょう。
しかし、このような場面に遭遇した場合、多くの人は、交換を拒否します。
それは、自分が持っているものの価値を高く評価する保有効果が働くからです。
シュークリームよりプリンが好きだから交換に応じないのではないかと思うでしょうが、シュークリームを最初に持っていて、プリンと交換する場合でも、拒否する人の割合が高くなります。
資産の売却はためらいがちになる
このように保有効果が働きやすい傾向があることから、人は、自分が持っているものを手放すのをためらいがちです。
長いこと着ていない洋服は、リサイクルショップに売却した方がクローゼットがすっきりして良いのはわかっているけども、なかなか処分できません。読んだ本が感動したから手元に置いている人は多いと思いますが、何度も読む人は少ないのではないでしょうか。
手放すことは損することという意識が働いているので、不用品をなかなか処分できないんですね。
では、値下がりし続けている株式はどうでしょうか。
売却に踏み切れない人は、多いと思います。
保有し続けていれば、株価が回復するかもしれないから損切りできないと考えられがちですが、実は、売却できない理由には保有効果があると考えるべきでしょう。
事業内容が流行に左右されず、財務諸表を分析しても業績に問題がないのなら、株価が下がっても損切りする必要はありません。取得時点で財務諸表にまったく目を通していないのなら話は別ですが。
しかし、事業内容が時代遅れとなり、毎期、売上や利益がじわじわと下がっており、純資産も目減りしているのなら、株式の売却を検討すべきです。50万円で取得した株式が30万円まで値を下げていたとしても、他に30万円で取得できる株式があり業績が良好なのであれば、旧株式を売却してそちらに乗り換えるべきです。
ところが、このような選択も、人は苦手です。
- 実際に50万円を支出して取得した株式が30万円に値を下げ20万円の損失を確定させた。
- あの時30万円で株式を買っていれば、50万円まで値上がりしたので20万円得していたはずだった。
「1」は実際に支出がある20万円の損失です。「2」は支出はないけども、20万円得するチャンスを逃した機会損失です。
どちらも、同じ20万円の損失なのですが、痛みを感じやすいのは「1」の支出がある損失の方です。人には、このような傾向があるから、今持っている株式を売却して損失を確定させ、将来有望な株式に買い換えることが難しいのです。
このような人の感情を知っていれば、自分が同じ状況に立たされた場合にどう行動すべきか判断できますよね。
30万円まで目減りした資産が50万円に回復する可能性が高いのは、ジリ貧の会社の株式を持ち続けることか、その株式を売却して業績が伸びている会社の株式を取得することか。
そんなに難しい選択ではないですが、保有効果を知らないと、ついジリ貧の会社の株式を持ち続けることを選択しがちです。
保有資産の価値は、自分が思っているほど高くないのだとの認識を持つことが、じわじわと資産価値が目減りしていくのを食い止めるためには大切です。