株式、債券、不動産など、投資対象はたくさんあります。
何に投資するかは重要な要素です。しかし、投資対象の価値を合理的に評価できなければ、その投資案が自分にとって望ましい結果となるかどうかを知ることができません。
投資対象の価値を合理的に評価できない原因には、投資の経済効果を計算できないといった技術的な問題もありますが、自分が合理的だと判断したことが、実は不合理な判断だったと気づかないことが挙げられます。
合理的経済人を目指す
投資案を合理的に評価するためには、自分自身が合理的経済人(ホモ・エコノミカス)になることが重要です。
伝統的経済学が前提とする人は、合理的経済人であり、様々な経済モデルは、人が合理的な行動をできることを前提として成り立っています。
しかし、人には感情がありますし、この世のあらゆる情報を入手し処理できる頭脳を持っているわけではないので、いつでも合理的な判断ができるわけではありません。また、常に合理的な行動をしていると人間関係が悪化しますから、波風立てないようにするために時に不合理な行動をする場合もあります。
社会生活では、良好な人間関係を築くことも大切ですから、そのために不合理な行動をすることは許されます。むしろ、揉め事が発生するくらいなら、少々金銭的に損をしたとしても、ストレスを抱え体調を崩し通院することに比べたら安いものだとも言えます。
ただし、個人が、株式でも債券でも、何かに投資して資産形成をする場合、このような人間関係を考えることは通常ないので、合理的経済人になって投資判断をすることが大切です。
投資案の選択
今、100万円の余裕資金があったとします。
この100万円の投資先を探していたところ、投資案Aと投資案Bが見つかりました。そして、それぞれの投資成果を見積もったところ以下のように計算できました。
投資案A
- 1年目の現金流入額=70万円
- 2年目の現金流入額=50万円
投資案B
- 1年目の現金流入額=60万円
- 2年目の現金流入額=60万円
投資案Aも投資案Bも2年間の現金流入額合計は120万円で同じです。だから、一見すると、どちらに投資しても同じ結果になると思えます。
毎年一定額の収入がある方が家計のやりくりがしやすいと考える人は投資案Bを選ぶかもしれません。未来なんてわからないんだから、できるだけ早い時期に多くの投資額を回収したいと考える人は、投資案Aの方が魅力的だと思うでしょう。
しかし、どちらの場合も、個人的な感情で2つの投資案のうち、どちらが有利かを判断していますから、合理的とは言えません。どちらの投資案が有利かを合理的に判断するなら、人によって選択が変わることはありません。
1年後の60万円と2年後の60万円は同じ価値か
投資案Bは、1年目も2年目も60万円の現金流入があります。
では、1年目の60万円と2年目の60万円は同じ価値でしょうか?
今、定期預金の利率が2%で、この状況は数年間変わらなかったとします。そして、この定期預金は非常に安全性が高くリスクはないものとします。したがって、利率2%はリスクフリーレートとなります。
1年後に入ってきた60万円は、定期預金に1年間預けておけば1万2千円の利息が付きます。
- 600,000円×2%=12,000円
そうすると、2年後には61万2千円の現金が手元にある計算です。
したがって、1年後の60万円は2年後の60万円よりも、利息1万2千円が上乗せされているため、1年後の60万円は2年後の60万円よりも価値が高いと考えられます。
現在価値に割り引く
同じ金額でも、早い時期の現金流入額ほど価値が高いことがわかりました。
投資案Aと投資案Bでは、合計の現金流入額は同じ120万円ですが、投資案Aの方が1年目の現金流入額が多いので有利な投資案であると判断できます。
では、どの程度、投資案Aが有利でしょうか。
複数の投資案を比較する方法には様々ありますが、ここでは現在価値に割り引く方法で投資案Aがどれだけ有利かを計算します。
投資案Aは1年後に70万円、2年後に50万円の現金流入があります。
リスクフリーレートを2%とすると、1年後の70万円は2%の利息が上乗せされた金額であり、2年後の50万円は2%の利息が2年分上乗せされた金額であると考えられます。
そうすると、1年後の70万円から2%の利息を差し引いた金額が、今現在の価値となります。同様に2年後の50万円には2年分の利息が含まれているので、利息部分を差し引いた金額が今現在の価値となります。
1年後の70万円と2年後の50万円を今現在の価値に計算すると以下の通りです。
- 700,000円×1/(1+0.02)=686,275円
- 500,000円×1/(1+0.02)²=480,584円
したがって、2年間の現金流入額合計の今現在の価値は1,166,859円となり、投資額を差し引くと、正味166,859円の価値となります。
同じように投資案Bの今現在の価値を計算すると164,937円になります。
したがって、投資案Aと投資案Bでは、投資案Aの今現在の価値が、1,922円多いので有利と判断できます。
- 166,859円-164,937円=1,922円
このように将来の現金流入額を今現在の価値に計算することを現在価値に割り引くと言います。詳しい内容は、以下のウェブサイトをご覧ください。
どこまで情報を入手できるか
投資案が有利か不利かを判断するためには、合理的に計算しないといけません。
しかし、投資案からもたらされる現金流入額を正確に把握するのは難しいのが現実です。人は世の中のあらゆる情報を入手することは不可能ですし、将来、何が起こるかを確実に予測することもできません。
人がどんなに合理的に行動しようと思っても、能力的に困難なことはたくさんあります。そこに人の限界があるのですが、だからと言って、勘に頼って投資案を選ぶのは良くありません。
入手できる情報に限界があっても、投資案を合理的に評価する考え方は知っておくべきです。