ポートフォリオの見直しは難しい

資産運用の手段はたくさんあります。預貯金もあれば株式もありますし、不動産、投資信託、純金なども投資対象となります。

どれに投資すべきかは、その時の状況によって違ってきます。そして、資産運用の最中にも、望ましい投資対象は変化します。だから、資産運用では、将来性のある投資先に乗り換えることも大切です。

しかし、それはわかっていても、なかなか実行に移せないのが人の性です。最初に株式で資産を運用すると決めたら、何があっても株式投資をやめない人は多いですし、定期預金利率が下がっても、ずっと定期預金に預け続ける人も多いです。

現状維持バイアスが働く

一度手にしたものを手放したくないという保有効果と同じような概念に現状維持バイアスがあります。

例えば、職場の人事異動で営業部から購買部に移ることになったとします。このような場合、今の営業部にいたいなと思う人が多いものです。

しかし、転属を拒むことができず、しぶしぶ購買部に異動するしかありません。これまでの営業部は、自宅から30分で通勤できましたが、購買部に異動したことで通勤に1時間かかるようになりました。そこで、職場に近い場所に引っ越しをしようかと考えますが、やっぱり住みなれた今の街を離れるのは嫌なので、そのまま住み続け1時間の通勤を我慢することにしました。

こういう話はよくあるものです。

営業部から購買部への移動は、最初は嫌だったかもしれませんが、働いているうちに購買の仕事の方が楽しくなることはあります。また、引越しするのは嫌だったけども、引っ越してみたら、以前よりも住環境が良好で気に入ったということもあります。

でも、人は、現状を変えたくないという気持ちが強いことから、営業部への異動も引っ越しも拒みたくなります。これが、現状維持バイアスです。

現状の変更は良くなることもあれば悪くなることもあります。現状に不満がなければ、損失回避的な思考が働き、積極的に現状を変えようとは思わなくなります。

余剰資金を自宅に保管している人に銀行に預けた方が安全だし利息も付くから得だと言っても、現状を変えず、ずっと自宅に大金を置き続けるのも現状維持バイアスと言えます。

余剰資金を自宅に保管すべきか定期預金にすべきか?

銀行の手続きが面倒。
銀行にお金を持っていく途中で盗まれたら困る。
もしも銀行が破綻したらどうしよう。

そういうことを考えていると、自宅にお金を保管していて何も不自由なことはなかったのだから、わざわざ定期預金にしなくても良いかと思うようになります。

ポートフォリオを変更したくない

個人型確定拠出年金(iDeCo)で、老後資金を運用している人なら、定期的にポートフォリオを見直してリバランスすることが大事だと聞いたことがあると思います。

iDeCoを始めた時は、国内株式、国内債券、海外株式、海外債券に均等に掛金を割り振っていても、その後の経済情勢の変化で、国内株式に掛金を多く割り振った方が有利な状況になることがあります。この場合には、リバランスして、国内株式に厚めに投資すべきです。

それはわかっているのですが、なかなかポートフォリオを変更しようとしないのは、現状維持バイアスが働いているからと言えるでしょう。

「リバランスした後に国内の株価が低迷し始めたら嫌だな。それだったら、現状のままでいいか」

このように思う気持ちはよくわかります。未来のことは誰にもわからないのですから、必ず国内株式に厚めに掛金を配分した方が得するとは言い切れません。積極的に動いて損するくらいなら、何もしない方がましだと考えたくなるものです。

iDeCoのリバランスに限らず、株式投資でも、短期売買を繰り返すことは好ましいことではありません。でも、この考え方が積極的に動かないことの言い訳になってはいけません。

ポートフォリオを見直そうか検討した結果、現状維持を選ぶのと、何も考えずに現状維持になることとは意味が違います。

人は、現状維持バイアスによって、現状を変えたくないという心理が働きやすいことは、資産運用を行う上で知っておいた方が良いでしょう。

ポートフォリオの変更を全くしていない人は、現状維持バイアスが、ポートフォリオの見直しを邪魔しているかもしれません。