資産運用の評価は保有資産以外の情報に引っ張られる

家電量販店にデジタルカメラを買いに行った時、49,800円の値札が訂正されて39,800円になっていたら、お買い得だと思うのではないでしょうか。

そして、最初は別のデジタルカメラを買う予定だったのに39,800円に値引きされていることに魅かれて、買う予定ではなかったデジタルカメラの購入を決断することはよくあります。

デジタルカメラに限らず、寿司でも、化粧品でも、自動車でも、当初の値段や見積もりより価格が低くなると、お買い得だと感じるものです。

最初に入手した情報が判断の基準になる

39,800円のデジタルカメラがお買い得だと判断した理由は、もともとの値札が49,800円だったからと答える人は多いと思います。もちろん、そのデジタルカメラの機能を熟知していて、39,800円が安いと判断する人もいるでしょう。

しかし、それほどデジタルカメラに詳しくない人だと、1万円の値引きが背中を押して購入という決断にいたることは少なくありません。

この場合、もともとの値札に記されていた49,800円という金額が、価格が高いのか安いのかの判断基準になっています。自分は意識していないくても、いつの間にか49,800円が基準となり、39,800円を安いと判断しているのです。

このように何かの推定を行う際、外部から与えられた情報を基準とし、そこから調整をしながら結論を導くことは、誰もが当たり前のように行っています。そして、外部から与えられた情報が、推定のバイアスとなって十分に調整が行われないことをアンカー効果アンカリング効果)といいます。

アンカーは、碇のことです。船が碇を下すと、その場から動きにくくなることに例えて、外部から与えられた値を基準にして、物事を推定してしまうことをアンカー効果というわけです。

日経平均の値動きと保有株式の評価

株式投資をしていれば、毎日の日経平均の値動きが気になるものです。テレビのニュースでも、新聞でも、必ず日経平均の終値がいくらだったかをチェックしたくなります。

日経平均もまた、投資家にとってアンカー効果になりやすいと言えるでしょう。

日経平均が順調に右肩上がりに推移していれば、今が株の買い時だと思いますし、反対に日経平均が下がり続けていれば、今は株を買うべきではないなと判断しがちです。

しかし、日経平均は、日本を代表する企業の株価の平均ですから、それ自体が個別の企業の株価に影響を与えるわけではありません。例え日経平均が右肩上がりに推移していたとしても、自分が保有している株式が同じように右肩上がりに株価が上がっていくとは限りません。

ところが、保有株式の株価が日経平均と連動せず横ばいで推移していると、投資に失敗したと思ってショックを受けてしまいます。

アンカー効果

例えば、この保有株式が鉄道会社のものだったら、そんなに大きく値動きすることはありません。しかし、日経平均がアンカーとなっているため、そのような業種の特徴は無視され、右肩上がりに株価が上がって行かないことにショックを受けます。

日経平均に限らず、平均売上、平均利益率、平均配当額など、平均を基準にして物事を判断する癖が知らず知らずの間に付いているものです。平均を完全に無視する必要はありませんが、なんでも平均と比較していると、平均がアンカーとなり、個別の事情を考慮して投資対象を評価できなくなります。

日経平均の値動きを毎日チェックするよりも、企業の事業内容を調べたり、財務諸表を分析した方が株式投資では大切です。